あんなはなし こんなはなし
お寺の境内などにある獅子(こまいぬ)は犬それともライオン(猫)?獅子といいますと、普通はライオンの事をいいます。仏説無量寿経の中にある重誓偈のご文に「説法獅子吼」(ライオンが吼えるように法を説く)と示され、偉大なものの比喩としてしばしば使われます。
獅子舞の獅子や、お寺の獅子というと、ついライオンの事だと思っていますが、どうなんでしょうか?

これはインドのベナレス(バナラシ・・と発音するらしいですが)の博物館にあった、アショカ王の紋章でもあるアショカピラーの一部です。アショカ王がその国土であることを示すため、その領地に頭部にライオンが三対乗った柱を建てたと言われます。
この像では、口元は猫科の動物の特色である三つ口であり、その瞳はいわゆる猫目をしています。
お釈迦様がおられた時代とほぼ同じであると言われます。

これはネパールのバドガオンという地の寺院にあった獅子です。鼻先のあたりがまだ猫科ですが、ライオンからはかなりデフォルメされてきています

これは同じくバドガオンの寺院の彫刻にあった犬です。骨格などから、日本の柴犬等と同じ様に見えます。既に首輪をし、人間と共に在しています。
ここからいきなり東アジアに飛びます

マカオの浄土教系寺院にあった獅子のうち、雌の方です。正面左手が雌、右手が雄となり、玉を転がしている方が雄、子犬?をあやしていたりしている方が雌です。鼻から口元、目と耳の位置関係がインドのものと大幅に変わってきています。
沖縄のシーカーサーや、日本の瓦にある獅子、台湾の建築様式に見られる屋根の飾りの動物の中の犬などへ発展していきます。
私はどうみても、東アジアに見られる獅子はライオンに見えなかったのです。お釈迦様がおられた頃のライオンの生息分布はわかりませんが、どうみても、膝の曲がり具合、あごのかみ合い具合、背骨のカーブ(猫背じゃないんです)が気になっておりました。
もしかして・・これは東アジアの、ペキニーズ・シーズー・狆などの先祖ではないのか
これが獅子?
近所のお寺(超専寺さん)のヘネシー
シーズーという犬種がいます。とある書物を読んでいたところ、古代中国で宮廷犬として大切に育てられ、宮廷や寺院で大切にされたとありました。実はこのシーズーの事を 獅子狗 と呼んで大切にしたと文献にあります。
実は「獅子」と書いて「シーズー」と発音するらしいのです。
ストップ(鼻先から眉間までの長さ)が短く、垂れ耳、がっしりした上半身(胸まわり)、物事に動じない(頑固な・・)性格、この犬のことをライオンの様な犬だ・・・と呼んで大切にされていたのでございます。
もともと、仏教寺院には、番犬などの役目でチベタンマスチフやラタ・アプソの様に、お寺で育てられた犬が居ます。彼らは、あるときは盗賊から寺院を守る番犬であり、経蔵でネズミや侵入者の警備をする番犬でもありました。また、修行僧たちの集団生活の中で、精神的な潤滑剤の役目もあったであろうと思われます。
お寺の本堂の中をみてみましょう

本堂の内陣にある須彌段(阿弥陀さまが安置されている台)の側面の獅子の彫り物です。口元、胸元、お腹のまわり、後ろ足の筋肉の付き方、明らかに犬です。毛の具合が表現上かなりデフォルメされていますが、はっきりと東アジアの小型犬の特色を示しています。

本堂の中央にある、香炉(お焼香するところ)の蓋のうえにもいました。玉をもってこちらを振り返っています。この玉は単なる遊び道具ではなく、本来は大切な意味があるのでしょうが(龍の玉と同意か?)普段見ている目の前に、犬がいました。
お焼香するとき、ちょっとだけさがしてみましょ・・・・こっちむいて尻尾降っていたりするかも。
ひといきつきましょう・・・・
仏教で犬というと、すぐに「あれは畜生だから・・」などと言われます。地獄・餓鬼・畜生・修羅・人間界・天上界これを「六道」といいますが、これは仏教以前からインドにある思想で、生物学上の分類とは少し違います。(それだと畜生と人間界しか実在しません)親鸞聖人が「教行信証」に引用されているご文の中に「二足四足多足の衆生」(にそくよんそくたそくのしゅじょう)という言葉がございます。阿弥陀如来さまがお救いの目当てとされるのは、この世に存在するすべての衆生(生命体)ですから、犬であろうと、もっと小さな生物であろうと、絶対にその命をはかないものにさせないぞと願いをたてられております。
どんな命であっても、同じように時間が流れているのですから・・・・
こんなところにこんな犬
- 本願寺第八代の蓮如上人が可愛がっていらした日本犬(柴犬か?)の木像が現存しています。
- 法然上人伝絵という、法然上人(親鸞聖人の師匠さん)の物語を絵にした物の中に、鎌倉期の武家屋敷の建築の絵がございます。この武家屋敷の庭に、垂れた尻尾、垂れた耳、ぶち模様の犬、すなわち「101匹わんちゃん」等で出てくるダルメシアン種の犬が居ます。なぜこんなところに・・・・・ 当時からペルシャ交易などで西洋種の犬が日本に入ってきた証拠なのかも・・・。
なんでもないことかもしれませんが、ちょっと注意していると意外な発見があるかもしれません。
日本特有のキツネ信仰や、昔話に出てくる狸たち。人間に化けることによって、人間と会話をしたり、はたまた人間に恩返しをしたり・・・東洋特有の発想がここにあります。
それだけ身近な存在だったのかもしれませんね。
1997/02/09